東京藝術大学音楽学部邦楽科には、長唄、三味線音楽、箏曲、能楽、邦楽囃子、尺八、日本舞踊、雅楽の専攻があります。和楽の美は、こうした様々なジャンルが共存する藝大という環境を生かし、邦楽科ばかりでなく音楽学部の他科(西洋音楽)や、美術学部の教員、学生と協力して、専門の壁を超えた新しい邦楽の舞台作品の創作および上演をしています。
「義経記」は、鎌倉幕府を開いた兄頼朝に追われ、若い命を東北の地に散らした悲劇の武将を巡る物語として、諸々の媒体を通じて日本人の美学を確立しました。また、義経の一代記を描きながら、静や弁慶をはじめとする義経ワールドの脇役達も活躍し、ここからは多くの芸能の種が生まれ、能楽、歌舞伎、邦楽、邦舞、民族芸能の世界に根を下ろし、今日まで脈々と続いています。
この度の公演は、義経と静の出会いから、瀬戸内の決戦、吉野山中の別れ、静の東下り、義経の敗走、平泉での滅びまで、義経伝説を巡る芸能の諸相に挑みます。
和楽の美は、本学の演奏芸術センター主催で平成14年に始まったシリーズです。美術や伝統音楽、舞踊などの専門家達の自由な発想によって繰り広げられる和楽の美の舞台は、伝統音楽の各ジャンルの典型的な舞台面のみに縛られることはありません。たとえばコンピュータグラフィックが用いられたり、あるいは美術学部ならではの最高の技術で、あっと驚くような舞台面が披露されたりするのも、和楽の美の楽しみのひとつです。伝統邦楽に詳しい方々にはもちろん、伝統に馴染みの薄い方々にも同様、充分御満足いただけるような舞台を制作致します。幅広い年齢層の方々にとって楽しく、分かりやすく、親しみやすく、かつ本格的な、これからを生きる伝統芸能を知っていただける絶好の機会となることと思います。是非楽しみにご来場下さい。
(統括 萩岡松韻)
*写真は前回の内容です。